小さな毎日をのんびり楽しみながら生きていたい。
夫で詩人の光冨郁埜の側でゆっくり時間を過ごしている。

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午後の昼食

IMG_6697.JPGIMG_8091.JPGいつものように私は静かに曇った思いを抱きながら、散歩コースを歩いていた。歩いていると、居心地のよさそうな室内の様子が見えるカフェが見えたので、ドアを押して入ってみた。カフェの西側の端に、帽子を被った物静かな紳士が座っていて、微笑んでいる。「一緒にブランディの入った珈琲はいかがですか?」とささやくので、私は少しためらう思いが生まれたけれど、恥ずかしさを隠しながら、コクリと頷いて、一緒のテーブルに着いた。
紳士が若いウエイトレスに「いつものを1杯」とささやくと、ウエイトレスが音を立てずに一杯の珈琲を持ってきたので、どんな珈琲かな?と思って目をやると、珈琲に一輪の小さな黄色いバラが浮かべてあり、カップの周りに小さな白い花がいくつも添えてある。私は「なんておしゃれな珈琲なのだろう・・。」と思いながら、どこかで不思議な思いを感じていた。すると、紳士が「飲まないの?・・」とつぶやくので、私はしばらく黄色いバラが浮かんだ珈琲を見つめていたあと、黙って珈琲カップを口元に持っていき、一口をゆっくりのどに通してみた。
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すると、シュンッっと何かが通る音がしたかと思うと、室内はいきなり白い部屋に変わり、花冠が一つだけテーブルに置かれてあり、さっき手にした黄色いバラが入った珈琲はなくなっていた。座っていた帽子を被った紳士もウエイトレスもいなくなってい、私は白の部屋に一人っきりになっていた。
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いったい何が起きたのだろう?と思いつつ、そのことに驚くこともなく、私はそのまま白の壁が涙と色さまざまな花ばなと、そして解けることのない問題に埋め尽くされていくのを見つめていた。すべてがマーブル模様になっていくのを、声が消えてしまった人のようにぼんやりと見つめていたのだった。時間の流れが分解され、花ばなはいろいろな顔になり、涙が大きな海になっていくのが私には見えていた。
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このまま何もかもが不可解な現実だったのだ、と理解しようとする時、鳥の鳴き声が私の目の前を横切って行った。その瞬間に私は遠くに行き過ぎてしまった魂が自分のもとに帰ってきたかのように意識が戻り、目の前の様子を感じ始めたのだった。目の前には帽子を被った紳士が座ってい、濡れた花に目線をやりながら詩の音について静かに話しているのだった
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私は、その数分に起きた出来事を胸に鎮めながら、ゆっくりお昼の食事が準備されていくのを静かに見ながら、紳士の目を見ていた。気付けば店内では映画の音楽が静かに流れている。紳士は「どうしたの?」と聞くので、私は「食事が始まったらゆっくり話したいから」と言って紳士が話しているのを続けてほしい、と促したのだった。


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